「もっといい日」連載

「医療って誰のもの?」

第2回「患者さんに夢と希望を与えることこそ真の医療」(2000年9月号)
「医療とは何のためにあるのでしょうか?」
多くの人がこう答えるでしょう。
「病気を治すため」。
でも、この答えは、医療のほんの一部分にしかあてはまりません。医学や医療技術は急速に発達を遂げてきましたが、最先端医療をもってしても、治せる病気はごくわずかです。いろいろな病気を抱える100人の患者さんがいるとき、現代医療によって明らかな治療効果を得られるのは10人程度と言われています。残りの約90人は、現代医療からほとんど影響を受けないか、むしろ、悪影響を受けているということです。
ロバート・メンデルソンは、「医者が患者をだますとき」(草思社)の中で、医者が長期ストライキをしたときに、その地域の死亡率が減少した例を紹介して、「医者が仕事をやめると世の中が平穏になる」と言っています。これは極論ではありますが、医療が必ずしも病気を治しているとはいえず、逆に病気を生むことがあるという事実は知っておくべきだと思います。
こんなことを書くと、「医療には夢も希望もないのか」と思われるかもしれませんが、私の言いたいのはその逆です。医療が「病気」に与える影響には限界がありますが、その限界をこえて、「人間」に夢と希望を与えうるのが真の医療なのです。今の医療が「絶望」「不安」「不幸」をもたらしているのは、患者さんも医者も「医療が病気を治す」という幻想に固執しているからです。医者は、病気を治すことが医者の使命だと教え込まれ、それを唯一の目標として次々と強い治療を重ねていきます。治療によって患者さんが苦しんでいても、病気を治すためには仕方ないと考えます。そして、病気に対抗する手段をすべて使い果たしたとき、「敗北」という言葉を口にして、患者さんのもとから立ち去ります。「治る」ことを絶対善とすると、「治らない病気」を抱えた患者さんに残されるのは「絶望」「不安」「不幸」だけなのです。
今生きている日本人の3人に1人はがんで亡くなるといわれています。医療によって治癒するがんも増えてはいますが、がんというのは、「老化現象」に近いものであって、人類ががんを根本的に克服することはできません。そういう現実の中、「絶望」を大量生産し続けるのではなく、「希望」を生み出す真の医療が必要とされています。
私は、冒頭の質問にはこう答えます。
「医療とは、人間に『希望』『安心』『幸福』をもたらすためにある」。
病気を治すだけでなく、「治らない病気」と共存する道を探るのも大切な医療の役割です。患者さんと医者が、医療の限界を認識した上で、患者さんの幸福のために何ができるのか、人間として語り合っていくことこそが医療の原点だと思います。
老いてゆくこと、治らない病気に直面すること、そして、死にゆくこと--。これらは人間が人間であり続ける限り、避けては通れません。つらい現実ではありますが、それらによって希望や幸福がなくなってしまうわけではありません。医療は、目の前にある希望や幸福を見失わないための道案内をするべきなのです。
パッチ・アダムスは、「患者さんの健康のためには、薬を飲むことよりも、幸福を感じることの方が重要である」と言っています。これからの医療は、より積極的に「人間の幸福」を追求するべきであり、それこそが真の健康につながるのではないでしょうか 。