第1回「人間中心の医療を」(2000年8月号) |
医療とは何のためにあるのでしょうか。
医療とは何に基づいて行われているのでしょうか。
いったい、医療とは何なのでしょうか。
簡単そうに見えて、すぐには答えの出てこないこれらの質問について、皆様と一緒にじっくりと考えていこうというのが、この連載の目的です。
私は、医者になる前、医療とは、患者さんに「希望」と「安心」と「幸福」をもたらすものだと思っていました。でも、医者になって、現実の医療がそうではないことを知り、愕然としました。患者さんに「絶望」と「不安」と「不幸」をもたらしているとしか思えない医療がはびこっているのです。
最近では、連日のように「医療ミス」が報道されていますが、これは医療の抱える問題のごく一部にすぎません。「絶望」「不安」「不幸」を生むような医療を、根本的なところから変えていかなければ、もっと大変なことになってしまいそうです。
今の日本の医療のどこがおかしいのか、本当の医療とはいかにあるべきなのか、医療を変えていくために何をしなければいけないのか、そういうことを一つ一つ考え、そして、行動していきましょう。
コチコチにこり固まった医療構造にメスを入れるというのは、たやすいことではありませんが、これを読んでいる皆様一人一人が意識を変え、自分の問題として医療に取り組んでいけば、それはきっと大きなうねりとなって、よりよい医療への道筋が開けるはずです。
私の理想とする医療は、「人間の人間に拠る人間のための医療」です。「人間」というのは、患者さんを中心に、医療スタッフ、家族や友人、その他患者さんをめぐる人々をすべて含みます。「すべての人間が主体的に関わり、人間として語り合っていく中で、人間性を最大限に尊重する医療を創ろう」というのが私の主張です。医療というのは、人間の体をめぐる人間の営みなのですから、「人間を中心に」というのはごく当たり前の発想なのですが、現実の医療は、それとは逆の方向で発展してきました。当たり前のことを声高に叫ばなければいけないというのは、悲しいことですが、人間からどんどん離れていく医療を人間の手に引き戻すためには、そういう原点に立ち返らなければいけません。
医療は、ほかならぬ「あなた」のものです。そして、医療を変えていくのも「あなた」です。「あなた」があなたの医療と向き合うことから、医療改革は始まります。
今までの患者さんと医者の関係は次のようでした。
患者「お医者様の言っていることはよくわからないけど、お医者様は何でも知っているはずだから、お任せしよう」
医者「患者は何も知らないから、私の好きなようにやればいい。難しいことを言って偉そうに見せておけば文句は言われないだろう」
「お医者様は絶対」という幻想の中で、患者さんは見せかけの安心を得て、医者はその地位に安住していい加減な医療を行ってきたのです。
これからの医療は次のようになるべきだと思います。
患者「自分の体のことなのだから、医者から納得できるまで話を聞いて、自分でも情報を集めて、自分にとって一番いい治療方針を決めていこう」
医者「最先端の情報を調べて、わかりやすく患者さんに伝えよう。私の意見だけでは不十分だから、他の医者の意見も聞いてもらおう。納得してもらえたら、共通の目標に向かって、力を合わせて医療に取り組んでいこう」
こちらの医者の方が頼りなく見えるし、病気で苦しいときに自分で決断しなければいけないのはつらいことかもしれません。
あなたはどちらの関係を選びますか?
冒頭の質問への答えも含め、皆様からご意見をお聞かせいただき、それをもとに、これからの連載を進めていきたいと思います。よりよき医療を築くために、是非とも皆様のお力をお貸し下さい。 |
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