第一線の医師が答えるガン(日刊工業新聞系 流通サービス新聞より)

EBM(科学的根拠に基づく医療)

第50回 化学療法総論(その3)















− 副作用の基礎知識 −

回答者(高野 利実氏)

あなたが化学療法を勧められたら、その治療にどういう効果や副作用があるのか、副作用を抑えるために何をしてくれるのか、医師に説明を求めるべきです。副作用について何も知らずに過剰な恐怖心を持つべきではないし、安易に治療を始めるべきでもありません。今回は、抗ガン(ガン)剤の一般的な副作用とその対策について説明します。

骨髄抑制…抗ガン剤は、骨髄中の造血幹細胞を障害し、血液細胞(白血球、赤血球、血小板)への分化や増殖を抑制します。固形ガンの化学療法では輸血が必要なほどの貧血や血小板減少はあまり起こりませんが、白血球減少が問題となることはよくあります。白血球は細菌などから身を守る役割をするので、これが減ると感染の危険が増します。白血球を増やすG―CSF製剤や細菌を退治する抗生剤が用いられますが、これらの適切な使い方については、現在も研究が進められています。

吐き気…吐き気には、化学療法後24時間以内に現れる「早発悪心」、それ以降に現れる「遅発悪心」、1度経験した吐き気が記憶され、条件反射を起こす「予期悪心」の3種類があり、前の二つを抑制するには、5―HT3受容体拮抗剤とステロイド剤の併用が最も有効です。予期悪心を抑制するには、吐き気を経験しないように治療されること、吐き気を経験したあとでも適切なサポートが行われることが重要です。

脱毛…これもつらい副作用ですが、残念ながら、脱毛を抑える有効な方法は確立していません。それでも、かつらなどの助けを借りながら日常生活を普通に送っている方はたくさんいます。一人で思い悩まずに、患者団体などに相談してみるのもよいでしょう。
このほか、抗ガン剤によっては、肝機能障害、腎機能障害、末しょう神経障害、心筋障害、間質性肺炎、膀胱(ぼうこう)炎などの副作用がありますが、これらも、適切な対応で予防や改善が図れます。

化学療法は適切に用いれば非常に有効な治療法ですが、副作用が大きいのも事実です。効果と副作用を勘案しながら、効果が上回らなければ、その治療は行うべきではありません。「副作用に耐えてガンと闘う」というのは、時代遅れです。今後は、高い治療効果のある化学療法の開発とともに、副作用を最低限に抑える方法も追求されなければなりません。副作用対策においても、科学的根拠に基づく医療(EBM)が重要な意味を持つのです。

(1999年11月2日)