第一線の医師が答えるガン(日刊工業新聞系 流通サービス新聞より)

EBM(科学的根拠に基づく医療)

第49回 化学療法総論(その2)















− 患者と医師との話し合いが重要 −

回答者(高野 利実氏)

 あなたがガン(ガン)になって医者から化学療法を勧められたとしたら、まず、その化学療法が自分の病状に適した標準治療(大規模な臨床試験で効果が証明された治療)なのか確認する必要があります。日本では、医師の経験やカンで、標準的ではない化学療法が行われることが少なからずあるようです。非標準治療を提示されたときには、医師に対し、それを行う根拠を明確に示すよう求め、科学的根拠がない治療は拒否するべきです。さもないと、副作用だけ大きくて効果の小さいような治療をされかねません。ガンとのいたちごっこで次々と強い化学療法が行われ、結局、その副作用で亡くなってしまうという悲しい事態も現実に起きています。

 標準治療よりも高い効果を期待して、新しい抗ガン剤や新しい組み合わせが試される場合もあります。それはいわゆる「臨床試験」であり、将来、標準治療になる可能性があるとしても、今の段階では非標準治療であって、きちんとした「説明と同意」がなければ、そういう治療を行うことは許されません。

 今ある標準治療も絶対的なものではなく、常によりよい治療法が模索されています。医師は常に世界の最先端の臨床試験をフォローして、患者さんにとって最もよい治療が何なのかを知っておく義務があり、それを怠っているような医師の治療は受けるべきではありません。そういう姿勢が「EBM」の原則です。

 ただし、ガン患者全員に無条件に標準治療をあてはめればいいというものでもありません。標準治療が何なのかを知らないのは医師失格ですが、標準治療を絶対とあがめたてて、それを患者に強要するというのも医師として不適格です。いくら標準治療であっても、副作用が大きく、患者さんのQOLに大きく影響する化学療法は、患者さん側と医療者側とのきちんとした話し合いの上で行われなければなりません。医師は、期待される効果と起こりうる副作用について正確な情報を提示し、患者さんは、自分の生き方についての考えや希望を述べ、そして、治療目標(根治?延命?症状緩和?)はどこに置くのか、副作用があっても、なおその治療を行う意義があるのかどうかについてじっくり話し合う場が必要です。「科学的根拠(エビデンス)に基づく医療(EBM)」は、これからの医療の大前提です。その根底には、人間としての語り合いや人生哲学を重視する「人間性(ヒューマニティー)に基づく医療(HBM)」があるべきなのです。

(1999年10月26日)