第一線の医師が答えるガン(日刊工業新聞系 流通サービス新聞より)

EBM(科学的根拠に基づく医療)

第48回 化学療法総論(その1)















− ガンの種類により標準治療が確立 −

回答者(高野 利実氏)

 ガン(ガン)に対する「化学療法」というと、一般的に、抗ガン剤による治療をさします。抗ガン剤の種類はさまざまで、今も次々と新しい薬が開発されています。化学療法では、1種類または何種類かの抗ガン剤を組み合わせて投与されるので、組み合わせは無数に存在することになります。そんなにたくさんある中から、いったいどんな根拠で化学療法のメニューは選ばれるのでしょうか。今回から3回にわたり「化学療法総論」ということで、そういう疑問にお答えしようと思います。

 抗ガン剤は、腫瘍細胞をやっつける薬の総称です。デオキシリボ核酸(DNA)を形作るのに必要な物質を作れなくする代謝拮抗剤(5―FUなど)、DNAと結合して複製をできなくするアルキル化剤(シクロフォスファミドなど)や白金製剤(シスプラチンなど)、DNAの合成を阻害するアントラサイクリン類(アドリアマイシンなど)やブレオマイシン類、細胞分裂をするのに必要な微小管を働けなくするビンカアルカロイド(ビンクリスチンなど)やタキサン(ドセタキセルなど)、DNA二重らせん構造を壊すトポイソメラーゼ阻害剤(エトポシドなど)が代表的なものです。このほかにも、サイトカイン(インターフェロンなど)、ホルモン剤(タモキシフェンなど)、ステロイド剤(プレドニンなど)が抗ガン剤として用いられることがありますが、抗ガン剤の大部分は、細胞分裂やDNA複製をできなくする薬だと言えます。無秩序に細胞分裂を繰り返すというのが、腫瘍細胞の本質的な性質ですので、そこにブレーキをかけることで腫瘍細胞をやっつけることができるのです。

 ガンの種類(発生部位、組織型)によって、どの抗ガン剤が有効に働くか異なり、また、抗ガン剤の組み合わせ方も効果や副作用に影響を与えます。どういう組み合わせがより有効で安全であるのかを調べるために、これまで繰り返し大規模な臨床試験が行われており、ガンの種類や病期などによって、それぞれ標準的な化学療法が確立されています。化学療法の種類は、抗ガン剤の名称の頭文字を並べて表現されますが、肺ガンに対する「EP療法」、早期乳ガン術後補助療法としての「CMF療法」、悪性リンパ腫に対する「CHOP療法」は標準治療の代表的なものです。化学療法では、患者さんのガンの状態を正確に把握して、それに適した標準治療を行うのが一般的です。

(1999年10月19日)