第一線の医師が答えるガン(日刊工業新聞系 流通サービス新聞より)

EBM(科学的根拠に基づく医療)

第65回 緩和医療とは?















− 根治治療と並ぶ医療の柱 −

回答者(高野利実氏)

 緩和医療とは、病気や治療に伴う様々な症状を和らげ、日常生活をサポートするための医療です。痛み、だるさ、吐き気、食欲不振、息苦しさなどの身体的症状の緩和から、広くは精神的ケア、リハビリ、社会的援助までを含みます。医療というのは、病気の治癒を目指す「根治治療」と、この「緩和医療」によって成り立っています。根治治療が医療の中心と考えられがちですが、医学で根治できる病気がごく一部である以上、緩和医療なしの医療はありえません。例えば、風邪をひいたときに医者から出される薬は、風邪自体を治すものではなく、風邪症状を和らげるものです。これは立派な緩和医療です。

 緩和医療は広い意味ではこのようになりますが、狭い意味では「余命の短いガン(ガン)患者の苦痛を取り除くための医療」とされ、「終末期医療(ターミナルケア)」とほぼ同じ意味で用いられます。日本では、ガンが見つかると根治治療が徹底的に行われ、それが限界に達した段階で、根治治療から緩和医療へ切り替えられるという構図があります。「一般病院は根治治療を行うところ」「緩和医療は緩和ケア病棟やホスピスという特別な場所で行われるもの」という固定観念もあって、一般病院では、なかなか症状緩和について配慮されません。

 でも、緩和医療とは、一般病院でガンが見つかったときから行われるべきものです。根治治療を行いながらも、ガンによる症状をとったり、治療に伴う副作用をできる限り小さく抑えたりする努力を忘れてはなりません。

 主に根治治療で用いられる「積極的治療」(手術、化学療法、放射線治療)に対し、病気の勢いには影響を与えない治療を「支持的治療」といいます。緩和医療では、主に支持的治療が用いられますが、積極的治療も適切に用いれば症状緩和に有効です。根治ができないと分かったあとでも、緩和医療の一環としての積極的治療を選べることが重要です。ガン医療全般にわたり、積極的治療と支持的治療がバランスよく行われる必要があるのです。

 「科学的根拠に基づく医療」は、根治治療だけでなく、緩和医療にも適用されます。腫瘍(しゅよう)縮小効果や延命効果だけでなく、自覚症状、QOL、身体機能、精神的安らぎなどを評価する臨床試験が幅広く行われるべきであり、その結果に基づき、患者さんにとって最もよい医療が選択されることが望まれます。

(2000年2月22日)