HER2陽性乳癌の治療
金原出版「これからの乳癌診療2010-2011」第3章 薬物療法 より

虎の門病院臨床腫瘍科
高野利実

Summary

HER2陽性転移性乳癌の予後は、抗HER2薬の登場後明らかに改善しており、できるだけ早期から抗HER2薬を使うべきと考えられる。現在、ファーストラインの標準的治療は、トラスツズマブとタキサン系抗癌剤の同時併用であるが、トラスツズマブ単剤やトラスツズマブとホルモン療法との併用も検討される。セカンドライン以降では、トラスツズマブをbeyond PDで使用することもあるが、ラパチニブ+カペシタビン併用療法の有効性も示されている。今後、トラスツズマブとラパチニブを適切に使い分けていくためにも、両者の効果を予測するバイオマーカーを明らかにしていくことが重要である。

はじめに

Human epidermal growth factor receptor 2 (HER2)は、乳癌の約20~25%を占める「HER2陽性乳癌」の発癌や進展に深く関与している蛋白である。トラスツズマブ(ハーセプチン)を皮切りに、このHER2を標的とする分子標的治療薬が次々と開発されており、かつては予後不良とされたこのタイプの乳癌の予後を劇的に改善させている。HER2陽性転移性乳癌をめぐる最新のエビデンスと今後の展望について述べる。

I. HER2陽性乳癌の特徴

「HER2陽性」の定義については今なお議論が続いているが、HER2蛋白の免疫染色で3+(浸潤癌細胞の30%以上で細胞膜が一様に強く染色される)、または、fluorescent in situ hybridization(FISH)検査で第17染色体コピー数に対するHER2遺伝子コピー数の比が2.0以上の場合をHER2陽性とすることが多い(1)。

HER2陽性乳癌の予後は不良であったが、トラスツズマブの登場によって状況は変わっている。MDアンダーソンがんセンターで1991~2007年に治療を受けた2,091例の転移性乳癌症例の解析では、HER2陰性乳癌の1年生存率が75.1%であったのに対し、ファーストライン治療としてトラスツズマブが使われなかったHER2陽性乳癌の1年生存率は70.2%と予後不良であったが、ファーストライン治療としてトラスツズマブが使われたHER2陽性乳癌の1年生存率は86.6%と有意に予後が改善していた(2)。

かつて、トラスツズマブ治療が脳転移を増やすという報告がなされて話題になったが、その後の研究で、HER2陽性乳癌では、HER2陰性乳癌と比較して、もともと脳転移が起きやすいこと、トラスツズマブ治療の有無で脳転移の頻度に差はないことが明らかになっている(3)。トラスツズマブは血液脳関門を通過しにくいため、脳転移に対する効果は限定的であり、トラスツズマブ治療で予後が改善したこととあいまって、脳転移が顕在化する症例が多くなっているのだと考えられる。なお、脳転移が認められても、その後の予後はHER2陰性乳癌よりも、トラスツズマブ治療を受けているHER2陽性乳癌の方がよいと報告されている(3)。後述するラパチニブ(タイケルブ)については、脳転移にも有効である可能性が示唆されている。

HER2と化学療法の効果との相関についても議論が続いている。主に術後化学療法の臨床試験のレトロスペクティブ解析で、HER2陽性乳癌ではアントラサイクリン系抗癌剤の効果が高いという報告がなされている。アントラサイクリン系抗癌剤が直接作用するのはHER2ではなくTOP2Aであり、TOP2A遺伝子は、第17染色体でHER2遺伝子と近接して存在しているため、TOP2Aの方が真の効果予測因子候補と考えられているが、HER2、TOP2Aとも、一貫した結果は示せておらず、効果予測因子として確立しているとは言えない(4)。

 

II. 抗HER2薬の使い方

HER2を標的とする分子標的薬(抗HER2薬)として、わが国では、抗HER2モノクローナル抗体であるトラスツズマブと、HER2およびEGFRのチロシンキナーゼ阻害薬であるラパチニブが承認されている。現在開発中の薬剤も数多くあり、今後、これらの薬剤の最適な使い方について議論していく必要がある。

 

1.ファーストライン化学療法+抗HER2薬

HER2陽性転移性乳癌に対するトラスツズマブの有用性を決定付けたのは、ファーストライン化学療法にトラスツズマブを上乗せする意義を調べた第III相試験である(5)。この試験には469人が登録され、アントラサイクリン系抗癌剤+シクロフォスファミド、または、パクリタキセル単剤による化学療法にトラスツズマブを併用することで、併用しない場合よりもTime to progression (TTP) (中央値7.4ヶ月対4.6ヶ月、P<0.001)、生存期間(中央値25.1ヶ月対20.3ヶ月、P=0.046)を有意に延長した。なお、この試験では、アントラサイクリン系抗癌剤とトラスツズマブの同時併用によって心毒性が高頻度に生じることも示されており、現在は、両薬剤の同時併用は避けるのが原則となっている。この試験とは別に、ドセタキセルによるファーストライン化学療法にトラスツズマブの上乗せ効果を示したランダム化比較第II相試験もある(6)。また、ファーストラインでビノレルビンとトラスツズマブを同時併用した単アームの第II相試験でも、奏効率68%と有望な結果が示されている(7)。現時点では、タキサン系抗癌剤+トラスツズマブ同時併用がファーストラインの標準的治療と言える。

ラパチニブについても、ファーストライン化学療法への上乗せ効果が評価されている。HER2陰性または検査未施行の転移性乳癌579例を対象に、パクリタキセル+ラパチニブとパクリタキセル+プラセボを比較した第III相試験(EGF30001試験)では、中央での検査でHER2陽性と判定された86例に限ったサブグループ解析で、ラパチニブ上乗せによるTTPの有意な改善が認められている(36.4週対25.1週、P=0.005)(8)。現在、HER2陽性転移性乳癌を対象とした同様の比較試験や、タキサン系抗癌剤+トラスツズマブとタキサン系抗癌剤+ラパチニブを比較する試験が進行中である。

 

2. 抗HER2薬単剤

化学療法単独で治療を開始するよりも抗HER2薬を併用した方がよいのは明らかであり、また、後述するように、ホルモン療法単独で治療を開始するよりも抗HER2薬を併用した方がよいという結果も示されていることから、HER2陽性転移性乳癌に対しては、できるだけ早い段階から抗HER2治療を開始するべきだと考えられる。現在議論が分かれているのは、抗HER2薬単剤で治療を開始することが許容されるのか、最初から化学療法を併用すべきなのか、という点である。

トラスツズマブ単剤をファーストラインで用いた第II相試験として代表的なものが2つある。H0650試験では、HER2の免疫染色が2+または3+の転移性乳癌114例に対し、ファーストライン治療としてトラスツズマブ単剤毎週投与がなされ、奏効率は26% (HER2-FISH陽性の79例に限ると34%)、生存期間中央値は24.4ヶ月であった(9)。生存期間中央値では、同時期にほぼ同じ適格規準の症例に対して行われた化学療法+トラスツズマブ併用の第III相試験の成績(5)と遜色ない結果であり、直接の比較試験はなされていないものの、トラスツズマブ単剤で開始することも一つの選択肢と考えられるようになった。もう一つの第II相試験では、HER2陽性転移性乳癌105例に対し、ファーストライン治療としてトラスツズマブ単剤3週毎投与がなされ、奏効率は19% (中央判定でHER2陽性が確認された87例に限ると23%)であった(10)。

一方、ラパチニブ単剤をファーストラインで用いた第II相試験(EGF20009試験)は、HER2-FISH陽性の138例を対象に行われ、奏効率24%であった(11)。

HER2陽性転移性乳癌に対しては、トラスツズマブを単剤で開始し、病勢が増悪してから化学療法の併用を開始する治療方針と、最初からトラスツズマブと化学療法を同時併用する治療方針が考えられるが、この2つの治療方針を比較する第III相試験が日本で行われた(12)。化学療法未施行のHER2陽性転移性乳癌を対象に、逐次併用群(トラスツズマブ単剤→病勢増悪後トラスツズマブ+ドセタキセル併用療法)と同時併用群(トラスツズマブとドセタキセルを同時に開始)を比較するデザインで、プライマリーエンドポイントは、無増悪生存期間(PFS)(逐次併用群では、トラスツズマブ単剤治療での病勢進行または死亡までの期間として定義)であった。160例の登録が予定されていたが、逐次併用群での死亡率が有意に高かったことから、独立データモニタリング委員会が中止勧告を行い、112例登録時点で症例集積は中止された。PFS中央値は3.7ヶ月対14.6ヶ月(P<0.0001)で有意に同時併用群の方が優れており、全生存期間についても、ハザード比 2.72(P=0.0352)で、同時併用群が優れていた。このデータに基づいて「トラスツズマブを単剤で開始することは許容されず、全例で化学療法を併用すべきである」という主張もなされているが、この試験は、そもそも生存期間を評価するための症例数設定ではなく、途中で集積が中止され、追跡期間も短く、死亡症例数が少ないことから、生存期間についての結論を出すことはできない。トラスツズマブ単剤で長期奏効する症例もあることから、生命を脅かす病状ではなく、トラスツズマブ単剤の効果を確かめる時間的余裕があるような症例では、トラスツズマブ単剤で開始するという選択肢も引き続き妥当であると筆者は考えている。

 

3. 抗HER2薬+ホルモン療法

ホルモン受容体陽性かつHER2陽性の閉経後転移性乳癌に対して、ホルモン療法のみと、ホルモン療法+抗HER2薬同時併用とを比較する第III相試験が3つ行われている。TAnDEM試験では、207例がアナストロゾール+トラスツズマブ併用群とアナストロゾール単独群に割り付けられ、PFS中央値は4.8ヶ月対2.4ヶ月(P=0.0016)と、有意に併用群で優れていた(13)。EGF30008試験では、219例がレトロゾール+ラパチニブ併用群とレトロゾール単独群に割り付けられ、PFS中央値は8.2ヶ月対3.0ヶ月(P=0.019)と、有意に併用群で優れていた(14)。eLEcTRA試験では、レトロゾール+トラスツズマブ併用群とレトロゾール単独群が比較され、症例集積が遅かったため57例の登録のみで試験が終了となったが、TTP中央値は14.1ヶ月対3.3ヶ月(P=0.23)と、併用群で優れる傾向がみられた(15)。いずれの試験もPFSまたはTTPがプライマリーエンドポイントで、生存期間に有意差は認められていないが、HER2陽性転移性乳癌に対しては、抗HER2薬を早めに使った方がよいということが示唆される。

ホルモン受容体とHER2の間には複雑な「クロストーク」が存在し、ホルモン受容体陽性乳癌に対するホルモン療法では、HER2発現が耐性に関与していると考えられている。実際、HER2陽性乳癌ではホルモン療法の効果が小さいことが報告されている。また、アロマターゼ阻害薬による治療でエストロゲンが枯渇すると、癌細胞においてHER2がアップレギュレートされ、HER2依存性が高まり、ホルモン療法に耐性となる現象も報告されている。このため、ホルモン療法と抗HER2薬を同時併用することで、両薬剤の耐性化を防ぎつつ、相乗効果が期待できると考えられている。同様の「クロストーク」は、ホルモン受容体とEGFRの間にも存在することから、ホルモン療法とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬のゲフィチニブ(イレッサ)の併用を試みる臨床試験も行われている。ラパチニブは、HER2とEGFRの両者を阻害するため、ホルモン療法と併用するのに理想的な薬剤と言えるかもしれない。

なお、ホルモン受容体陽性かつHER2陽性の転移性乳癌に対しては、「抗HER2薬+ホルモン療法」と「抗HER2薬+化学療法」のどちらから開始するのが妥当か、今後明らかにしていく必要がある。

 

III. トラスツズマブとラパチニブの使い分け

 

1. トラスツズマブ耐性化後の治療方針

近年、盛んに議論されるようになっているのは、トラスツズマブ+抗癌剤併用療法中に病勢増悪をきたした場合の治療方針である。病勢増悪後もトラスツズマブ治療を継続したまま化学療法を変更する(トラスツズマブを”beyond PD”で使用する)のがよいのか、トラスツズマブは中止すべきなのか、トラスツズマブの代わりにラパチニブを使用するのがよいのか、あるいは、トラスツズマブとラパチニブを同時併用するのがよいのか、といったことが臨床試験で検証されている。このセッティングにおける代表的な第III相試験の結果を表1に示す。

 

表1 :トラスツズマブ+化学療法後のHER2陽性転移性乳癌を対象とした第III相試験

試験名

GBG 26/BIG 03-05

EGF100151

EGF104900

症例数

156

399

296

レジメン

HX

X

LX

X

LH

L

奏効率

48%

27%

24%

14%

10%

7%

TTP中央値(ヶ月)

8.2

5.6

6.2

4.3

2.8

1.9

ハザード比

0.69

0.57

0.73

P値

0.034

0.00013

0.008

生存期間中央値(ヶ月)

25.5

20.4

15.6

15.3

13.9

9.5

ハザード比

0.76

0.78

0.74

P 値

0.26

0.177

0.026

H: トラスツズマブ、X: カペシタビン、L: ラパチニブ

TTP: time to progression

 

GBG 26/BIG 03-05試験では、トラスツズマブ投与中に病勢増悪をきたした局所進行または転移性のHER2陽性乳癌156例(転移性乳癌に対する化学療法は1レジメン以下で、タキサン系抗癌剤使用歴があったのは85%)を対象に、カペシタビン単剤を投与する群とトラスツズマブを継続しながらカペシタビンを併用する群が比較され、プライマリーエンドポイントのTTPは、トラスツズマブ+カペシタビン併用群で有意に優れていた(中央値5.6ヶ月対8.2ヶ月、P=0.0338)(16)。この試験結果は、トラスツズマブのbeyond PDでの使用を支持するものであり、実地臨床では、「トラスツズマブを延々と継続しながら、併用する化学療法を変更していく」という治療方針が、さらに広まることになった。これまで、トラスツズマブ継続の意義を否定するようなエビデンスは示されておらず、「抗HER2治療を中止するきっかけがない」というのが臨床医の本音のようである。

EGF100151試験では、アントラサイクリン系抗癌剤、タキサン系抗癌剤、トラスツズマブの治療歴を有する局所進行または転移性のHER2陽性乳癌399例を対象に、カペシタビン単剤を投与する群と、ラパチニブとカペシタビンを併用する群が比較され、プライマリーエンドポイントのTTPはラパチニブ+カペシタビン併用群で有意に優れていた(中央値4.3ヶ月対6.2ヶ月、P=0.00013)(17,18)。この試験結果を受け、ラパチニブは、わが国でも、2009年4月に、HER2陽性転移性乳癌治療薬として、カペシタビンとの併用することを条件に承認された。トラスツズマブを延々と継続する以外に、トラスツズマブをラパチニブに変更するという選択肢ができたことになる。抗HER2薬を継続するとして、トラスツズマブを継続するのがよいのか、早めにラパチニブに切り替えるのがよいのか、については、今後の臨床試験で明らかにしていく必要がある。

EGF104900試験では、アントラサイクリン系抗癌剤、タキサン系抗癌剤、トラスツズマブの治療歴を有するHER2陽性転移性乳癌296例を対象に、ラパチニブ単独群とラパチニブ+トラスツズマブ併用群が比較され、プライマリーエンドポイントのPFSは、ラパチニブ+トラスツズマブ併用群で有意に優れていた(中央値1.9ヶ月対2.8ヶ月、P=0.008)(19)。また、ラパチニブ単独群の52%がトラスツズマブ併用にクロスオーバーしていたにもかかわらず、生存期間はラパチニブ+トラスツズマブ併用群で有意に優れていた(中央値9.5ヶ月対13.9ヶ月、P=0.026)(20)。ラパチニブ+トラスツズマブはHER2を標的とする2つの分子標的治療薬の併用で、細胞株の研究では相乗効果も示唆されており(21,22)、この試験結果は、それを裏付けるものになった。トラスツズマブのbeyond PDでの使用の意義を示した2つ目の第III相試験としても注目されるが、この高価な2剤を同時併用するのが妥当かどうかについてはさらなる議論が必要であろう。

トラスツズマブおよび各種化学療法の治療歴を有する症例に対するラパチニブ単剤の第II相試験では、奏効率が1~5%程度と報告されており(23,24)、ファーストラインでは24%の奏効率が示されている(11)のと比べてかなり劣る。EGF104900試験でもラパチニブ単剤群の奏効率は7%にとどまっていた(19)。これに対し、わが国で行われたラパチニブ単剤の第II相試験では、アントラサイクリン系抗癌剤、タキサン系抗癌剤、トラスツズマブの治療歴を有するHER2陽性転移性乳癌100例における奏効率が19%と報告されている(25)。現時点で、ラパチニブはカペシタビンとの併用においてのみ承認されているが、特に日本人において、ラパチニブ単剤治療の意義をさらに検証し、その効果予測因子を探索する必要があると思われる。

 

2. トラスツズマブとラパチニブの比較試験

トラスツズマブとラパチニブは、ともにHER2を標的とする薬剤であるが、トラスツズマブはモノクローナル抗体で経静脈投与され、ラパチニブは低分子のチロシンキナーゼ阻害薬で経口投与される。毒性プロファイルは全く異なり、トラスツズマブでは初回投与時のinfusion reactionや心毒性が問題となるのに対し、ラパチニブでは高頻度に皮膚障害や下痢が生じる。

これまで、HER2陽性転移性乳癌に対しては、トラスツズマブを中心に治療方針が組み立てられてきたが、今後は、ラパチニブ(やその他の抗HER2薬)をどのように治療方針に組み入れていくかを議論していく必要がある。トラスツズマブの次の薬として使うのが妥当なのか、トラスツズマブをbeyond PDで使用し続けるよりも早めにラパチニブに切り替えるべきなのか、トラスツズマブより先にラパチニブを使う意義があるか、また、トラスツズマブとラパチニブの同時併用にコストに見合うだけの意義があるのか、検証すべき課題は数多く残されている。

現在、様々なセッティングにおいて、トラスツズマブとラパチニブ(とトラスツズマブ+ラパチニブ併用)を比較する臨床試験が行われている。HER2陽性転移性乳癌に対しては、ファーストラインで「トラスツズマブ+タキサン系抗癌剤」と「ラパチニブ+タキサン系抗癌剤」を比較する臨床試験や、トラスツズマブ+タキサン系抗癌剤治療後で「トラスツズマブ+カペシタビン」と「ラパチニブ+カペシタビン」を比較する臨床試験が進行中である。HER2陽性の早期乳癌に対しては、術前または術後化学療法にトラスツズマブ、ラパチニブ、または、両剤を加えるレジメンを比較する大規模臨床試験が複数進行中である。

トラスツズマブが脳転移に対して奏効しにくいのに対し、ラパチニブでは単剤で脳転移に奏効した症例が報告されており(26)、また、EGF100151試験では、カペシタビン単独群よりもカペシタビン+ラパチニブ併用群で有意に脳転移出現が少なかったと報告されており(18)、ラパチニブは脳転移にも有効であることが示唆される。この点についても、今後の臨床試験で検証していく必要がある。

 

3. 効果予測因子

トラスツズマブとラパチニブの有効性をHER2陽性乳癌全体で比較することも重要であるが、今後の実地臨床においてさらに重要なのは、両者の使い分けに有用な効果予測因子の特定である。HER2陽性であっても、全例で抗HER2薬が奏効するわけではなく、また、効果の持続する期間も様々であるため、効果や耐性化を予測する因子を探索する意義は大きい。また、HER2陰性症例において、抗HER2薬のベネフィットが得られる症例を特定する試みもなされている。

 

a. HER2関連バイオマーカー

抗HER2薬の最強の効果予測因子は、言うまでもなく、HER2であり、HER2蛋白の免疫染色とHER2-FISHによる症例選択は実地臨床でも広く浸透している。ただし、前述のとおり、「HER2陽性」の厳密な定義についてはなお議論がある(1)。

早期乳癌術後化学療法にトラスツズマブを追加する意義を示したNSABP B-31試験では、中央でのHER2再検で陰性と判定された症例でも、HER2陽性症例と遜色なく、トラスツズマブの上乗せ効果があることが報告された(27)。同じく術後トラスツズマブの意義を示したN9831試験では、大部分の腫瘍細胞にHER2遺伝子増幅が認められなくても、一部の腫瘍細胞にHER2遺伝子増幅が認められれば、トラスツズマブのベネフィットが得られることが示唆されている(28)。また、HER2陰性転移性乳癌症例に対するパクリタキセル治療にトラスツズマブを上乗せする意義を調べたCALGB9840試験では、HER2-FISH陰性(第17染色体コピー数に対するHER2遺伝子コピー数の比が2.0未満)であっても、第17染色体コピー数増加(ポリソミー)が認められる症例では、トラスツズマブ併用によって奏効率が高くなっていた(29)。HER2陰性と判定される症例の中にも抗HER2薬のベネフィットを得られる症例が存在する可能性があるということになる。

HER2については、蛋白発現や遺伝子増幅以外にも、関連するバイオマーカーが探索されている。血液中に遊離したHER2の細胞外ドメイン(HER2-ECD)は、定量的に測定が可能であり、これまでに数多くの研究結果が報告されている。血清HER2-ECDの上昇は転移性乳癌(HER2陰性症例を含む)の40%程度に認められ、腫瘍組織のHER2発現と相関し、上昇がみられる症例の予後は不良であることが知られている(30)。治療前の血清HER2-ECDがトラスツズマブを含むレジメンの治療効果と相関するという報告もある(31,32)が、ファーストラインでのトラスツズマブ+ビノレルビン併用療法の臨床試験では、相関は認められなかった(7)。また、ドセタキセルによるファーストライン化学療法にトラスツズマブの上乗せ効果を示したランダム化比較第II相試験(6)や、トラスツズマブ単剤をファーストラインで用いた第II相試験 (10)など、4つの臨床試験の登録症例についての解析でも、治療前の血清HER2-ECDと治療効果に相関は認められなかった(33)。ラパチニブについても、パクリタキセルへの上乗せ効果をみたEGF30001試験(34)、および、カペシタビンへの上乗せ効果をみたEGF100151試験(18)において、治療前の血清HER2-ECDに、効果予測因子としての意義は認められなかった。治療開始後の血清HER2-ECDの変化が治療効果判定に有用であるという報告は多いが、治療前の血清HER2-ECDによって抗HER2薬の適否を判断することは、現時点では推奨されない。

HER2を含む二量体(HER2/HER2ホモダイマー、HER2/EGFRヘテロダイマー、HER2/HER3ヘテロダイマー)の発現も効果予測因子として注目されている。細胞株の実験では、トラスツズマブは、ヘテロダイマーよりもHER2/HER2ホモダイマーを誘導された細胞を抑制し、ラパチニブは、いずれの二量体を誘導された細胞も抑制し、HER2のヘテロダイマー形成を阻害するpertuzumab(後述)は、HER2/HER2ホモダイマーよりもHER2/HER3ヘテロダイマーを誘導された細胞を抑制することが示されている(35)。HER2陽性乳癌の中でも、HER2/HER2ホモダイマーの発現が高い症例でトラスツズマブの効果が高いことも示唆されている(35)。

HER3のリガンドであるHeregulin (Neuregulin)が過剰発現している腫瘍細胞では、HER2の過剰発現がなくても、HER2/HER3ヘテロダイマー形成によってHER2が活性化されており、トラスツズマブが有効であることが示唆されている(36,37)。HER2陽性乳癌におけるリン酸化HER2 (pHER2)発現陽性の割合はむしろ少ないが、HER2陰性乳癌でも、Heregulin発現が高ければ、pHER2発現は高頻度に認められるという報告もあり、HER2だけでなく、HeregulinやpHER2を検索する意義があるのかもしれない(36)。

HER2遺伝子変異は乳癌の4%に存在すると報告されている(38)が、その臨床的意義については不明な点が多い。HER2遺伝子変異があると抗HER2薬に耐性となることを示唆する報告もある(39)一方で、癌腫は異なるが、EGFR遺伝子変異(A859T)とHER2遺伝子変異(G776L)を有する進行肺腺癌にゲフィチニブが無効でトラスツズマブが有効であったという一例報告もある(40)。HER2遺伝子変異(G776insYVMA)を有する細胞では、下流シグナルが恒常的に活性化し、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に耐性となるが、トラスツズマブやラパチニブなどへの感受性は保たれることが示されている(41)。

 

b. トラスツズマブの効果予測因子

トラスツズマブの作用機序として、HER2から細胞内へのシグナル伝達の阻害、HER2-ECD遊離の阻害、血管新生阻害、DNA修復の阻害なども示唆されているが、抗腫瘍効果の中心となっていると考えられているのは、抗体依存性細胞傷害(antibody dependent cell cytotoxicity; ADCC)である(42)。NK細胞など免疫細胞のIgG1 Fcγ受容体が、腫瘍細胞に結合したトラスツズマブのFc部位を認識し、腫瘍細胞を攻撃する。Fcγ受容体を欠損させたマウスではトラスツズマブの抗腫瘍効果が減弱することが示されている。術前トラスツズマブ治療を受けた症例の解析では、ADCC活性とトラスツズマブの腫瘍縮小効果に相関が認められた(43)。トラスツズマブ+タキサン系抗癌剤併用療法を受けたHER2陽性転移性乳癌54例の解析において、Fcγ受容体の遺伝子多型が治療効果と相関していることが示され (44)、術前にトラスツズマブ治療を受けた乳癌症例の病理学的完全奏効率とも相関していることが示されている(45)。しかし、術後トラスツズマブ治療の意義を示したBCIRG 006試験の登録症例のうち約1200例について、この遺伝子多型を解析した研究では、トラスツズマブの効果に遺伝子型による差は認められず(46)、トラスツズマブ治療を受けたHER2陽性転移性乳癌53例の前向き解析でも、Fcγ受容体遺伝子多型による治療効果の差は認められなかった(46)。

トラスツズマブの効果予測因子としては、c-Myc遺伝子増幅も研究されている。術後トラスツズマブ治療の意義を示したNSABP B-31試験では、c-Myc遺伝子増幅がトラスツズマブの効果予測因子となっていることが示された(47)が、N9831試験ではその結果が再現されなかった(48)。

 

c. トラスツズマブの耐性化

HER2陽性であってもトラスツズマブが奏効しない症例や、最初は奏効しても効果が持続しない症例がある。トラスツズマブのもともとの耐性や獲得耐性について、いくつかの機序や、それを予測するバイオマーカーが報告されており、耐性の克服や、抗HER2薬の適切な使い分けへ向けた試みがなされている。

前述のとおり、トラスツズマブは、HER2/HER2ホモダイマーの発現が高い腫瘍に対して強い効果を発揮する (35)が、EGFRやHER3のリガンドによるHER2/EGFRやHER2/HER3のヘテロダイマー形成を抑制することはできず、これらがトラスツズマブ耐性化に関与していることが示唆されている(49)。

HER2に結合するリガンドは特定されていないが、他のHERファミリー(EGFR、HER3、HER4)がそれぞれに対応するリガンドによって活性化され、HER2とのヘテロダイマーを形成し、HER2も活性化される。HER2による発癌にはHER3の存在が欠かせないと考えられている(50)。一方、HER3はキナーゼ活性が乏しく、HER3自身では下流シグナル経路を活性化することはできないが、HER2など他のHERファミリーと二量体を形成することによって強い活性を持つ。HER2/HER3ヘテロダイマーは、他の組み合わせの二量体と比べて活性が高く、特に、PI3K/Akt経路を強く活性化する(51)。HER2/HER2ホモダイマーは、主にMAPK経路を活性化し、PI3K/Akt経路はほとんど活性化できないため、トラスツズマブによって容易にシグナル伝達が阻害されるが、HER2/HER3ヘテロダイマーは、トラスツズマブによるシグナル伝達阻害を受けにくい(35)。これらより、HER3のアップレギュレートや、PI3K/Akt経路の活性がトラスツズマブ耐性化に関与していると考えられている。

HERファミリー以外にも、Insulin-like growth factor-I受容体 (IGF-IR)がHER2からのシグナル伝達に強く関与しており、IGF-IRの発現増加やIGF-IR/HER2ヘテロダイマー形成がトラスツズマブ耐性をもたらすことが示されている(52,53)。IGF-IRの発現が増加した細胞では、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害分子であるp27Kip1の発現が抑制されるため、トラスツズマブによって止められるはずの細胞周期にブレーキがかからなくなる(54)。p27Kip1の低発現とCDK2活性の増加がトラスツズマブ耐性と関与していることも示されている(55)。また、IGF-IRによるp27Kip1発現抑制やトラスツズマブ耐性化に関与しているのは、PI3K/Akt経路であると考えられている(54)。トラスツズマブ+ビノレルビンによる術前治療の臨床試験の解析では、IGF-IR発現のみられる症例で奏効率が有意に低かったと報告されている(56)。耐性を克服するため、トラスツズマブをIGF-IRを阻害する薬剤と併用する試みなもされている。

PI3K/Akt経路は、HER3やIGF-IRによって活性化され、トラスツズマブ耐性化をもたらすと考えられているが、PI3K/Akt経路の活性に関与する分子として、PTENも注目されている。PTEN遺伝子は癌抑制遺伝子で、PTEN蛋白は、PI3KによるAktの活性化を抑制する。PTEN遺伝子変異、PTEN遺伝子領域のloss of heterozygosity、エピジェネティクな機序によるPTEN発現低下などによって、PTEN機能は抑えられ、PI3K/Akt経路が活性化し、これが発癌にも関与していると考えられている。トラスツズマブは、PTENを活性化することでPI3K/Akt経路を抑制する作用を持っているが、PTEN機能が失われる(loss of PTEN)と、効果を発揮できなくなる(57)。細胞株や動物実験において、loss of PTENがトラスツズマブ耐性をもたらすこと、および、トラスツズマブ+タキサン系抗癌剤の治療を受けたHER2陽性転移性乳癌症例において、PTEN発現が治療効果と相関することが示されている(57,58)。

Loss of PTENとは別に、PIK3CA遺伝子変異もPI3K/Akt経路を活性化し、発癌に関与していると考えられている。PIK3CA遺伝子変異は乳癌の25~40%で検出されると報告され(59-63)、代表的な2タイプの遺伝子変異(エクソン20のH1047R、エクソン9のE545K)を持つ腫瘍細胞ではPI3K/Akt経路の活性が高く(62), トラスツズマブに耐性であること(63,64)が示されている。Loss of PTENとPIK3CA遺伝子変異が同時にみられる症例は少ない(60,63)ため、両者を合わせて解析することで、トラスツズマブの効果をより正確に予測できることが示唆されている(63)。

PI3K/Akt経路がトラスツズマブ耐性化において重要な役割を果たしているのは確実で、細胞株の実験では、トラスツズマブとPI3K阻害薬の併用で耐性化を克服できることが示唆されている(57,64)。

HER2は、通常185kDaのp185HER2として存在するが、HER2-ECDが切断されたp95HER2もチロシンキナーゼ活性を持ったまま存在することが知られている。p95HER2にはトラスツズマブが結合する部位がないため、その耐性化に関与していると考えられている。p95HER2はEGFRとヘテロダイマー形成はできないものの、HER3とヘテロダイマーを形成し、下流シグナル経路を活性化する(65)。細胞株や動物実験において、p95HER2の発現した乳癌細胞はトラスツズマブに耐性であるが、ラパチニブには感受性があることが示されている(65,66)。早期乳癌症例483例をウエスタンブロット法で解析した報告によると、p95HER2高発現は9%(p185HER2高発現症例の28%)に認められ、有意な予後不良因子であった(67)。トラスツズマブ治療を受けたHER2陽性転移性乳癌46例の腫瘍組織を免疫蛍光法で解析した報告によると、p95HER2発現陽性の9例で有意に奏効率が低かった(11%対51%)(66)。p95HER2はトラスツズマブ耐性に関与し、ラパチニブであればその耐性を克服できることが示唆される。

このほか、HER2-ECDをマスクして、トラスツズマブの結合を阻害するムチン(MUC4)がトラスツズマブ耐性に関与していることも示唆されている(68)。

トラスツズマブ耐性機序のうちいくつかはラパチニブであれば克服可能と考えられ、また、トラスツズマブに別の分子標的治療薬を併用することで克服可能な場合もあることが示唆されており、耐性となった原因を特定することが、今後重要になってくると思われる。

 

d. ラパチニブの効果予測因子

ラパチニブの臨床上の効果予測因子として注目されているのは、炎症性乳癌である。ラパチニブ単剤の第I相試験で奏効した4例のうち2例が炎症性乳癌であった(69)のを受け、HER2陽性進行炎症性乳癌126例を対象にラパチニブ単剤治療を評価する第II相試験(EGF103009試験)が行われ、奏効率39%、PFS中央値14.6ヶ月と良好な結果が報告された(70)。また、HER2陽性炎症性乳癌30例に対して術前治療としてラパチニブ+パクリタキセル併用療法を行った第II相試験では、奏効率77%、病理学的CR率17%という結果が示されている(71)。炎症性乳癌は高い確率で遠隔転移をきたす予後不良なタイプの乳癌で、HER2陽性が多く、ホルモン受容体陰性が多く、E-カドヘリン発現が高く、RhoCの発現が高く、癌抑制遺伝子LIBC(Lost in Inflammatory Breast Cancer)の機能が低下しているなど、いくつかの生物学的特性が知られている。LIBC遺伝子は、IGFがIGF-IRに結合するのを阻害する蛋白をコードしており、炎症性乳癌において、IGF-IR活性が重要な役割を担っている可能性がある(72)。炎症性乳癌でラパチニブの効果が高い背景を探るため、EGF103009試験では、バイオマーカー解析が当初から予定されていた。バイオマーカーとして、EGFR、pEGFR、HER2、pHER3、pERK、pAkt、Heregulin、TGFα、エストロゲン受容体、E-カドヘリン、IGF-IR、RhoC、PTEN、p53などが免疫染色で解析された。その最初の30症例の解析結果では、ラパチニブの奏効率は、リン酸化HER3(pHER3)発現症例で高く、p53発現症例で低いと報告された(73)。その後の報告では、トラスツズマブ治療歴のある場合、pEGFR発現、TGFα発現、pHER3発現が高い症例でPFSやOSが優れるという結果が示された(74)。

ラパチニブの第III相試験でもバイオマーカー解析は行われている。カペシタビンへのラパチニブ上乗せ効果を示したEGF100151試験では、EGFR発現やHER2-ECDなどが解析されたが、ラパチニブの効果予測因子となるバイオマーカーは見つからなかった(18)。パクリタキセルへのラパチニブ上乗せ効果を評価したEGF30001試験では、HER2陽性乳癌の中で、ホルモン受容体陰性のサブグループでよりラパチニブの効果が高い傾向が認められた(75)。この試験では、HER2陰性でも、エストロゲン受容体陽性かつプロゲステロン受容体弱陽性の症例でラパチニブの効果が示唆されているが、EGFR発現とラパチニブの効果との相関は認められなかった(75)。レトロゾールへのラパチニブ上乗せ効果を評価した試験では、HER2陰性でも、術後タモキシフェンの最終投与から6ヶ月以内に再発をきたした症例のサブグループではラパチニブ併用群のPFSが優れる傾向が認められている(14)。あくまでも仮説の域を出ないが、ラパチニブの効果にホルモン感受性が関係している可能性も示唆される。

わが国で行われたラパチニブ単剤の第II相試験でも様々なバイオマーカーの解析が行われた(25)。HER2発現の程度はTTPと強く相関していたが、EGFR発現やHER2-ECDとの相関は認められなかった。エストロゲン受容体とTTPとの相関は見られなかったが、プロゲステロン受容体陽性症例では有意にTTPが短かった。また、トラスツズマブの効果と相関が示唆されているIGF-IRやPTENの発現については、この試験ではTTPとの相関はみられなかった。PIK3CA遺伝子変異については、解析できた29例のうち3例でH1047R変異が認められ、1例がPR、2例が16週間持続するSDであったことから、今後、効果予測因子として探索する意義が示唆される。さらに、HER2陰性の症例で1例CRが報告されており、この症例ではPIK3CA遺伝子にE767KのSNPが認められたというのも興味深い。

通常の化学療法では抑制が難しいとされる癌幹細胞(CSC)に対するラパチニブの効果についても注目されている。術前治療前後で、CSCと考えられるCD44+/CD24lowの細胞の割合を評価した研究では、通常の化学療法ではこの割合が増加していたのに対して、ラパチニブを用いた治療では、この割合が減少したと報告されている(76)。

ラパチニブおよびトラスツズマブの効果予測因子、および、耐性化と関連する因子の探索は、両薬剤を適切に使い分けるためにも重要であり、さらなる研究を進めていく必要がある。

 

 

IV. 今後の展望

HER2陽性転移性乳癌に対しては、トラスツズマブ、ラパチニブ以外にも数多くの分子標的薬の開発が進められている。一部を表2に示す。

 

表2:承認済み、または、現在開発中のHER2を標的とする薬剤

薬剤

標的分子

特徴

開発状況

モノクローナル抗体

 

 

 

トラスツズマブ

HER2

 

2001年承認

Pertuzumab

HER2

二量体化を阻害

第III相試験

T-DM1

HER2

 

第III相試験

チロシンキナーゼ阻害薬

 

 

 

ラパチニブ

EGFR, HER2

可逆性

2009年承認

  Neratinib

EGFR, HER2

不可逆性

第III相試験

  Canertinib

EGFR, HER2HER3, HER4

不可逆性

第II相試験

  BIBW 2992

EGFR, HER2

不可逆性

第II相試験

  TAK-285

EGFR, HER2

日本で開発

第I相試験

  BMS 599626

EGFR, HER2

二量体化を阻害

第I相試験

  CP 724,714

HER2

高選択性

第I相試験

 

抗HER2モノクローナル抗体のPertuzumabは、HER2と結合する部位がトラスツズマブとは異なっており、HER2の二量体化を阻害するのが特徴である。動物実験により、トラスツズマブまたはPertuzumab単剤では抑えられない腫瘍を両剤併用によって抑えられることが示されており(77)、両剤併用の相乗効果が期待されている。トラスツズマブを含む治療中に増悪をきたしたHER2陽性転移性乳癌に対してトラスツズマブ+Pertuzumab併用療法を行った第II相試験では、25%の奏効率が認められている(78)。同様の対象にPertuzumab単剤治療を行った場合の奏効率は3%であったが、Pertuzumab単剤治療で増悪をきたしたあとにトラスツズマブ+Pertuzumab併用療法を行ったところ、21%の奏効率が認められており、両剤併用による相乗効果が強いことが示唆される(78)。現在、HER2陽性転移性乳癌に対するファーストライン治療として、トラスツズマブ+ドセタキセル併用療法にPertuzumabを上乗せする意義を調べる第III相試験(CLEOPATRA試験)、および、トラスツズマブを含む治療中に増悪をきたしたHER2陽性転移性乳癌に対する治療として、トラスツズマブ+カペシタビン併用療法にPertuzumabを上乗せする意義を調べる第II相試験(PHEREXA試験)が進行中である。

トラスツズマブ-DM1(T-DM1)は、トラスツズマブに微小管阻害薬であるDM1を結合させた薬剤で、トラスツズマブとしての効果に加えて、癌細胞に取り込まれたDM1がさらなる抗腫瘍効果を発揮する。トラスツズマブを含む治療中に増悪をきたしたHER2陽性転移性乳癌112症例を対象に行われたT-DM1単剤の第II相試験では、奏効率は38%で、トラスツズマブだけでなくラパチニブの治療歴もある78例についても、31%の奏効率が得られていた(79)。この試験のバイオマーカー解析では、中央で再検したHER2陽性が強い効果予測因子となっていたほか、PIK3CA遺伝子変異のある症例、または、PTEN発現のない症例で奏効率が低い傾向が認められており(80)、トラスツズマブ自体でみられる傾向と同様であった。現在、トラスツズマブを含む治療中に増悪をきたしたHER2陽性転移性乳癌を対象に、ラパチニブ+カペシタビン併用療法とT-DM1単剤治療とを比較する第III相試験(EMILIA試験)が進行中である。

HER2とEGFRの不可逆性チロシンキナーゼ阻害薬であるNeratinib とBIBW2992についても有望な結果が示されている。HER2陽性転移性乳癌に対するNeratinib単剤の第II相試験では、トラスツズマブ治療歴のない70例の奏効率が56%、トラスツズマブ治療歴のある66例の奏効率が26%であった(81)。また、トラスツズマブを含む治療中に増悪をきたしたHER2陽性転移性乳癌に対するBIBW2992単剤の第II相試験では、12%の奏効率が報告されている(82)。Neratinibについては、HER2陽性転移性乳癌を対象に、ラパチニブ+カペシタビン併用療法と効果を比較する第III相試験が進行中である。

トラスツズマブと他の分子標的治療薬の組み合わせについても、様々な取り組みがなされている。前述のとおり、トラスツズマブ耐性化を克服する目的で、PI3K/Akt経路の阻害薬(mTOR阻害薬など)やIGF-IR阻害薬との併用が検討されている。抗VEGFモノクローナル抗体のベバシズマブは、近い将来にHER2陰性乳癌に対する治療薬としての承認が見込まれているが、HER2陽性乳癌においても、トラスツズマブとの併用を試みる臨床試験が進められている。

HER2陽性乳癌では、分子標的治療薬が百花繚乱の状況であり、明らかにすべき問題も山積している。今後の臨床試験で効率よくそれらに答えを出していかなければならない。

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76)         Li X, Lewis MT, Huang J, et al: Intrinsic resistance of tumorigenic breast cancer cells to chemotherapy. J Natl Cancer Inst 100:672-679, 2008

77)         Scheuer W, Friess T, Burtscher H, et al: Strongly Enhanced Antitumor Activity of Trastuzumab and Pertuzumab Combination Treatment on HER2-Positive Human Xenograft Tumor Models. Cancer Res 69:9330–9336, 2009

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79)         Vogel CL, Burris HA, Limentani S, et al: A phase II study of trastuzumab-DM1 (T-DM1), a HER2 antibody-drug conjugate (ADC), in patients (pts) with HER2+ metastatic breast cancer (MBC): Final results. J Clin Oncol 27:15s, 2009 (suppl; abstr 1017)

80)         Krop IE, Burris HA, Rugo H, et al: Quantitative assessment of HER2 status and correlation with efficacy for patients (pts) with metastatic breast cancer (MBC) in a phase II study of trastuzumab-DM1 (T-DM1). J Clin Oncol 27:15s, 2009 (suppl; abstr 1003)

81)         Burstein HJ, Sun Y, Tan AR, et al: Neratinib (HKI-272), an irreversible pan erbB receptor tyrosine kinase inhibitor: phase 2 results in patients with advanced HER2+ breast cancer. San Antonio Breast Cancer Symposium, December 12, 2008 (abstract 37)

82)         Hickish T, Wheatley D, Lin N, et al: Use of BIBW 2992, a novel irreversible EGFR/HER2 tyrosine kinase inhibitor (TKI), to treat patients with HER2-positive metastatic breast cancer after failure of treatment with trastuzumab. J Clin Oncol 27:15s, 2009 (suppl; abstr 1023)