ハーセプチンは、従来の抗癌剤と比べて副作用が小さいことが最大の利点である。私は、ハーセプチン治療を、「がんとうまく長くつきあう」という治療目標に適した治療であると位置づけている。しかし、ハーセプチン単剤治療の意義はまだ明確にはなっておらず、現状では、ハーセプチン治療には、抗癌剤を併用することが望ましいとされている。ハーセプチン自体の副作用は軽いのに、結局は、抗癌剤による副作用を味わうことになるのである。
ハーセプチン単剤治療の意義を明確にするために、まずは、ハーセプチン単剤とハーセプチン+抗癌剤併用による治療を比較する臨床試験が行われる必要があり、その結果を踏まえて、治療方針が検討されるべきであろう。
ハーセプチン単剤治療の臨床試験
H0649g:1ないし2レジメンの化学療法が行われている患者を対象とした。222人が参加し、奏効率は15%(うちCRは4%、IHC3+に限った奏効率は18%)であった。奏効した患者34人については、生存期間の中央値は9.1ヶ月で、明らかなQOLの改善も認められた。
H0650g:転移後に化学療法が行われていない患者を対象とした。化学療法を希望しない114人が参加し、奏効率は26%(IHC3+に限った奏効率は35%、FISH+に限った奏効率は41%)、奏効した患者の奏効期間は18.8ヶ月、6ヶ月以上進行がみられなかったのは38%(IHC3+に限ると48%)、全体での生存期間中央値は24ヶ月であった。
ECCO11(第11回ヨーロッパがん会議)での議論 〜ハーセプチン単剤 vs 化学療法併用〜
<併用支持派の主張>
@ 生存率の改善がみられたH0648gの臨床試験は、ハーセプチン+化学療法同時併用の有効性を示すものである。
A 非ランダム化比較試験において、ハーセプチン+化学療法併用は、ハーセプチン単剤治療に比べて、生存期間が4ヶ月長いという結果が出ている(化学療法+ハーセプチン併用の場合の生存期間中央値26.8ヶ月、奏効率54%であったのに対し、ハーセプチン単剤の生存期間中央値22.9ヶ月、奏効率41%)。
B 基礎試験でも臨床試験でも、ハーセプチンと化学療法の相乗効果が示されている。
<単剤支持派の主張>
@これまでの臨床試験のデータをみてみると、転移性乳癌への第一ライン治療としては、単剤でも併用でも生存期間に大きな差はない。
※ H0648gで、paclitaxel+ハーセプチン併用の奏効率49%、生存期間中央値は25ヶ月。
※ H0650gで、ハーセプチン単剤治療の奏効率26%、生存期間中央値24ヶ月。
AQOLが高く、経済効率に優れ、抗癌剤との相互作用で毒性が強まる危険がない。
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